日対研(跡地)

旧 特定非営利活動法人 日本対性暴力研究所

2017年3月に解散した日本対性暴力研究所の研究開発の記録を保管・公開しています。

第1章 Deliverance for Sexual Assault Survivor とは?

Deliverance for Sexual Assault Survivor(以下、D.S.A.S.と略す)は、国産初の女性護身術(Feminist Self Defense)である【パラベラム】を構成するモジュールの一つとして開発されたレイプ被害者を支援するためのプログラムです。*1

内容は、精神医療や性犯罪の専門家では無い個人が、自分の身近なレイプ被害者を支援するために役立つ知識と行動をコンパクトにまとめたハンドブックとして書かれたものです。

はじめに

私たちは、女性の5人に1人がレイプされる可能性があることを知っています(知っているつもりでいるだけかもしれませんが)。もし、未遂まで含めると、襲われた女性は5人のうち3人と予測されています。

しかし、残念なことに、この数字の実態を確実に裏付ける正確なデータは、あまりありません。それは、被害者の3分の2以上が被害を届け出ないため、正確な数字がわからないからです。

また、レイプされているにもかかわらず、「自分はレイプされていない」と思い込まされている場合も多いのです。なぜならば、レイプの大部分は面識のある人物によって暴力を伴わずに行われます。一般市民の多くは、加害者が面識の無い人でない限り、レイプをレイプとは考えないことが多いのです。つまり、暴力と性別は関係ありません(暴力的でない男性が多く存在するため)。社会的・文化的な性の有り様が関係していのです。

このページにはレイプ被害者がレイプを自分に対する一種の罰などとは考えず、レイプの呪いにかからないための助言が書かれています。レイプが罰として認識されるとは、男性からの性的暴力を、心理的に無批判で受け入れる事を言い、そういった状態を「小さな死」と呼ぶ人もいます。そして、レイプの呪いとはレイプに怯え、消える事のない汚名の象徴として、レイプを意識し続ける事を言います。

そして、このD.S.A.S.は、様々な女性団体による議論や、あらゆるレベルの学術的分析に重点をおいていません。もちろん分析結果は間違っていませんし、その結果も真実でしょう。しかし、統計の数字だけでは深く傷ついた被害者の役には立たない場合もあります。時にレイプは、太古の昔、泥棒が焼印をおされ、一生その罪を背負ったように、潜在意識の中に永遠に刻印される場合もあるのです。*2

このページの文体や話の流を支援者の読者は少し「シンプル」に感じるかもしれません。たとえばこの文体。

「あなたが望むようには何も進みません、全ては被害者のできる事の範囲内でしか進行しません。」

「レイプされていると、その瞬間に出来ることしかできない、レイプ犯が去るまで命拾いをする、それだけでも被害者にとっては精一杯の行動で大変な事です。」

恐怖を理解する事はとても大事です。被害者は恐怖故に抵抗できずにいるのです。予期できる行動には恐怖感は存在しません。レイプ犯全員が使う共通の武器が恐怖です。

このD.S.A.S.を読み進んでいくうちに、被害者への接し方が非常に論理的であることが解ると思います。例えば、二次被害を生みがちな被害者への質問でさえ、返答は論理的です。例えば。

夜、外で何をしていたの?どんな服を着ていたの?

私は言います、例えみかんの皮を縫い合わせたような服を着ていたとしても、レイプを肯定する材料にはならない。

何故犯人と会話をしたの?何故そんなことをしたの?

私は言います、何故ならそれは禁じられていないから。禁じられているのはレイプです。

この論理を、必ず繰り返す必要がります。攻撃を受けた女性はさきのような質問をされがちです。被害者は他人の目、さらし者にされる恐怖から、黙ってしまい、内にこもるのです。

被害者が自尊感情を取り戻し、希望と生への道へと一歩踏み出せることを願ってやみません。

このD.S.A.S.は顔見知りによるレイプや近親相姦の被害者を支援したい方に読んでいただくページです。あなたがもし性暴力被害者なら、あなたの疑問のいくつかに答えをもたらすかもしれません。D.S.A.S.は助けてもらうためのページでは無く、助けるためのページです。

何故D.S.A.S.を作ったのか?

ページ冒頭にも書きましたが、D.S.A.S.は専門家を養成するためのページではありません。専門家では無い個人で、家族、友達、パートナーなど身近にいる、レイプ被害者、近親相姦被害者、性暴力被害者の、支援をしたいと考えている方のためのページです。

このD.S.A.S.で言うレイプとは性的暴力により、ペニスの挿入のあった犯罪を言い、近親相姦を親族による性的攻撃やレイプと言います。レイプ被害者はレイプされた後に何年たっても恐ろしい苦しみを味わい続ける場合があります。正しい支援を受けなかった人や支援を受けられなかった人の中には死ぬまで一生苦しみ続ける人もいます。支援すると言う事は被害者を救うと言う事です。レイプ被害者を支援すると言うのは「ちょっと助けてあげる」と言うニュアンスではなく「死の道から生の道へ導く」事です。

非人道的な体験をした女性や男性には助けが必要です。あまりにも大きな苦しみを背負った被害者は危険に曝されています。レイプ被害者をどのように支援するのか?「頑張りなさい」と揺さぶればいい訳ではありません!レイプ被害者は柿の木ではないのです!支援者は柿の木にとまってカアカア鳴くカラスになってはなりません!理解、優しさ、論理、共感する事が重要です。

必ずページに記載されているとおりに、支援を実施しなければならない訳ではなく、被害者の心が安らぐ文言であったり、被害者を勇気付ける文言であれば、アレンジしてもまったく構いません。論理的な思考と入れ替わらない役割、が重要なポイントです。レイプ犯だけが責任を負うべき犯罪者で、被害者は罪悪感から解放される必要があります。

このD.S.A.S.のページは意図的に(著者は男性ですが)「女性の話し言葉」で書かれています。これは、多くの場合、被害者は女性が多く、被害者支援も女性が行う可能性が高いからです。また繰り返し同じ言葉が記載されているのも、被害者に接してみるとわかりますが、同じ考え方を、繰り返し違う言い方で被害者に説明する事になるからです。レイプは被害者や社会にとって重大な社会問題です。対抗するには、被害者を支援し、レイプ犯を罰する必要があります。

あなたがこのページを開いたと言う事は、身近な人がレイプされ、その人を助けたいと思っているからでしょう。見て見ぬふりをするより、言葉に出して行動をしたいと、あなたは思っているでしょう。そう、あなたは正しいのです、言葉にする=相手が苦しんでいる事実を受け入れる事なのです。

また、考えたくはないことだと思いますが、被害者支援の知識や方法を知っておくことは、あなた自身がレイプ被害にあった場合のダメージ・コントロールの役に立つはずです。

D.S.A.S.における基本

次に、レイプ被害者の支援方法の基本を記載していきます。

自分の中にあるレイプ犯罪の先入観を全て取り除いてください。被害者支援とは、被害者にはこれがいいであろう、あれがいいであろう、ここへ連れて行けばいいだろうと思う、あなたが想像する事柄を「してあげる」と言う意味ではありません。例えそれが正しい事であってもです。支援は被害者のために何かをするのではなく、被害者とともにするものなのです。

従って自分のエゴをしまい込み(地獄の底からだれか救うのは気持ちいいのでエゴが出がちですから注意が必要です)、辛抱強く、共感することが大事です。

支援者が望むようには何一つ進みません。全ては被害者の出来る範囲内にしか進みません。

被害者は自分のペースで、自分の出来る範囲内で、したいときにしか事を進めません。あなたが彼女(彼)に元気になってもらいたいと思うことと、本人が元気になりたい思いとは違うのだと理解してください。辛抱強くなる事が必要です。辛抱が無ければよき理解者にはなれません。

どっち付かずにはならないで下さい。スポーツチームの審判のように規則に則って判断をすることも、静かに無関心を装う事もできません。あなたは被害者の味方で、ことごとくレイプ犯の敵にならなければなりません。被害者との連帯は必要不可欠です。

よき支援者になるためのルールは次のとおりです。

判断してはいけない
レイプ被害者はその時自分の命を救うために出来たことを全てしたのです。レイプ犯が去るのを待つ、それだけでも大変な事なのです。
比べてはならない
被害者が自分の事を話し始めたら、他の人の話にすり替えないでください。どこそこの女性が攻撃を受けて上手く逃げられた、などです。それは、それでその人にとってはハッピーエンドですが、それを被害者に言うと、「自分は失敗してしまった」と考えます。
疑ってはいけない
レイプのような恐ろしい体験を口にするのは、フラッシュバックがおこるので非常に難しいものです。それ故に被害者は体験を上手く話せなかったり、重要な点を忘れて、重要でない細部について話したり、時系列の乱れた話し方をしたり、レイプ後の事を話したりします。被害者によっては何も話せなかったり、理解不能な話になったりします。レイプ犯は言葉によって被害者の意識を混乱させます。例えば。「さぁ、どうだった?良かった?欲しかったんだろう?」、あるいはレイプ後に立場を逆転させて。「ありがたく思え、俺はまったくヤリたくなかった。」疑ってはいけません、理解してください。理解するのに時間がかかるなら時間をたっぷりとってください、何が起きたか理解できていない限り被害者を理解する事はできません。
恐怖を念頭に入れる
非常に重要な事です。被害者は恐怖に凍り付き抵抗できずにいます。予期できる行動に恐怖は感じないものです。恐怖は全てのレイプ犯が使う武器です。恐怖さえなければ、逃げる事も、叫ぶ事も、もしかしたら抵抗することもできたかもしれません。しかし、残念ながら被害者は恐怖に凍り付いていたのです。必ず被害者と会話をする時、その事を忘れないでください。
苦しみを尊重する
被害者が具合が悪いと言ったら、それは真実です。大丈夫あなたは元気よ、と言うのは逆効果です。苦しみを否定すると被害者は傷つきます。

レイプなんて存在しなければいいと思いますか?被害者もそう思っています。しかし過去を変える事は残念ながらできません。被害者は助けさえあれば、元の生活、生きる喜びを取り戻すができます。

レイプ被害者を助けたくなかったり、信じなかったりするのは非常辛い、二次被害を生みます。レイプ被害者は病気でも、頭がおかしいのでもありません。苦しんでいる人間で、時間とサポートさえあれば、その苦しみから抜け出したいと考えているのです。

あなたは第1章を読み終えました。支援者になる自信をなくしましたか?

一気にこのD.S.A.S.を読む必要はありません。深呼吸でもして時間をかけて読んで下さい。急いで読むより時間をかけて読んだ方が理解は深まります。ですので、チョコレートでもかじって、脳に糖分を補給してからでも、読書を再開してください。

parabellum.hatenablog.jp

 

*1:D.S.A.S.は日本対性暴力研究所の解散にともない開発が終了しており刑法改正に対応していないため一部の内容を削除してあります。また開発途中での公開であるため読みにくい文章となっていることをご了承下さい。

*2:D.S.A.S.では全体として、犯罪統計など事実の正確さではなく、被害者の支援に役に立つかどうかのみが優先されています。そのため、D.S.A.S.考え方を被害者支援以外の分野、例えば護身術、防犯や性犯罪対策に持ち込むことは、混乱を招くので避けるべきです。トレーニングとケアが異なることと同じです。